セルロースの微生物分解は、工業的利用の見地から単離菌株の純粋培養系では比較的よく研究されているが、土壌中のようなヘテロな環境を対象にした研究は極めて少ない。土壌中におけるセルロース分解活生の微細分布を制限する要因の一つが、植物残渣の局在によるものであることが示唆され、その近傍における微生物相の遷移と酵素群の消長は有機物の分解過程にとって重要な情報を提供するもと考えられる。これを解明するために、in situ測定法(ベンチコート法)を用いることによってシート上の微生物相ならびにシートに保持されているセルラーゼ群を追跡した。 まず、1.シートの埋設、培養条件の検討、2.シート回収後の種々の微生物相測定法の検討、3.シートからの遊離セルラーゼ抽出法の検討など、実験手法に関わる検討を行った後、農薬(殺菌剤、クロロタロニル)を施用した土壌条件下でのセルロース分解の経時的推移と微生物群の遷移について検討した。これまで、シート上の微生物相、とくに糸状菌相が、薬剤を施用した常温(25℃)条件下と低温(13℃)条件下では著しく異なる(Rhizoctonia solaniの優占)ことが明かとなり、このことが当該薬剤を連用した土壌中のセルロース分解活性が冬季に抑制されることの最も大きい要因であろうと推定した。 次年度以降では、これらの成果をふまえ、1.これまでの継続で、種々の土壌条件下でのセルロース分解の経時的推移と微生物群の遷移、セルラーゼ産生の消長をさらに追跡するとともに、2.経時的にシートから抽出される遊離セルラーゼ群の活性測定、分画、定性を行うことによって、土壌中における有機物分解の過程を微生物生態学的および生化学的に明らかにして行く。
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