研究概要 |
本研究では,葉緑体脂質の不飽和化活性の分布,生成機構および低温環境における不飽和化反応の生理的意義を明らかにすることを目的とした。これまでの研究実績の概要は以下の通りである。 1.葉緑体脂質の組成 単細胞緑藻Dunaliella salinaから葉緑体包膜ならびにストロマーとグラナチラコイド領域を含む膜画分を分離し,それらの脂質クラスと構成脂肪酸の組成を分析した。総じて,包膜脂質の構成脂肪酸はチラコイド膜脂質のそれよりも不飽和度が低く,包膜には脂質不飽和化の基質になる分子種群が多量に分布することが認められた。チラコイド膜では,脂質成分は側方に不均一に分布することが確認されたが,ストロマーおよびグラナチラコド領域の脂肪酸組成は類似していた。 2.葉緑体での脂質不飽和化活性の存在部位 外因性の放射性脂肪酸で細胞をラベルした後、経時的に葉緑体包膜とチラコイド膜の脂質成分への放射活性の取り込みおよび不飽和化の程度を比較検討した。どの脂質クラスにおいても,シス-ポリ不飽和脂肪酸の比放射活性はチラコイド膜よりも包膜脂質で顕著に高かった。一方、ホスファチジルグリセロール(PG)に特異な3ートランスーヘキサデセン酸(16:1^<3t>)の比放射活性は包膜よりもチラコイド膜で有意に高かった。これらの事実から、葉緑体中のシスー不飽和化酵素はすべて包膜に分布するが、トランスー不飽和化活性はチラコイド膜に存在することが明らかにされた。 3.16:1^<3t>合成酵素の局在性 グラナーおよびストロマチラコイド領域のPGなどについて,16:1^<3t>とシスーポリ不飽和脂肪酸の比放射活性を比較したが,すべての脂質クラスの構成脂肪酸の比放射活性には本質的な差は見出されなかった。このことから,16:1^<3t>合成酵素はグラナチラコイド領域に分布する可能性が示唆された。
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