天然甘味剤としてすでに実用化されているステビア植物由来の甘味成分は、ステビオールの骨格に配糖化された構造の数種の化合物である。これらはステビアレバウディアナ属にのみ蓄積され、乾物あたり5-10%に達することが知られている。ステビオール骨格は、植物成長ホルモンであるジベレリンの前駆体であるカウレン酸から合成される。カウレン酸はHMG-CoA還元酵素が律速段階であるメバロン酸経路で合成されるので、(1)この植物では、メバロン酸経路が異常に活性化されており、過剰蓄積されるメバロン酸をカウレン酸に導き、(2)すべてのカウレン酸からジベレリンを合成するとホルモン作用が過剰発現してしまうので、(3)カウレン酸をステビオールへ変換できる酵素を獲得し、(4)ステビオールは水に不溶性であるので、配糖化することで水溶性を付与して細胞内移行を可能にして、(5)液胞にステビオール配糖体(ステビア甘味剤)として蓄積する、との仮説をたてた。平成4年度では、ステビア葉から2種の配糖化酵素を単離精製し、基質特異性や基質親和性、金属要求性、分子量、反応の最適pHなどを明らかにし、ステビア甘味配糖体はこれら2種類の配糖化酵素の作用によって合成されると結論した。平成5年度の研究において、ステビア葉から調製した葉緑体チラコイド膜に存在するHMG-CoA還元酵素の活性は、栽培種であるホウレン草チラコイドでの活性よりも160-300倍も高く、また同じキク科の野生種、セイダカアワダチソウのチラコイドより、約20倍の活性であった。しかしながら、ミクロゾーム画分と可溶性画分のHMG-CoA還元酵素は3種の植物ともほぼ同じ活性を示した。ステビアとセイダカアワダチソウのチラコイド膜の酵素はHMG-CoAに対してほぼ同等のKm値を示し、特異的阻害剤メバスタチンに対する阻害にも差は認められなかった。これらの事実は、ステビアでは数多くの機能性分子の合成に利用されるメバロン酸が、他の植物に比べて過剰蓄積する代謝異常が起こり、カウレン酸に変換することで処理するが、カウレン酸をステビオールに変換することで、メバロン酸過剰蓄積を回避して、生存を計っていることが検証できた。今後はなぜメバロン酸が過剰に合成される必要があるのかを明かにし、ステビア甘味剤を大量に蓄積させるために、ステビア甘味剤合成系の生化学的、分子生化学的知見を集大成して、絞り込まれた目的遺伝子を増幅させたトランスジェニック、ステビア植物の創成を目指す。
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