研究概要 |
前年度までに、有毒成分を含む藍藻類がSynechococcus sp.であること、有毒成分は既知化合物であるスルホキノボシルジアシルグリセロールと類似の部分構造を持つことを明かにしたが、毒性発現の活性中心部分が未同定である。また、毒性については、HL-60培養細胞に対して150mg/mlの濃度でその増殖を50%抑制すること。コイ科のアカヒレに対する半数致死濃度は約20ppmであることを明かにした。 本年度はSynechococcus sp.の有毒成分の全構造を明らかにすること、および魚毒性発現のメカニズムの解明を試みた。構造未知の活性中心部分は室温アルカリ加水分解によって有毒成分から遊離した。この成分は加熱によって、脂肪酸と硫化水素に分解すること、パルミトイルクロリドと硫化水素から合成したPalmitothioic S-acidとIR,NMRのスペクトルが一致することから活性中心部分は脂肪酸のカルボキシル基がチオイック酸になっているものと考えられた。アルカリ加水分解でチオイックS-酸ができるという事実はチオイックO-酸エステルの存在を示すものである。なぜなら、このエステルがチオイックS-酸エステルであったならば、加水分解によってカルボン酸とメルカプタンになり、チオイックS-酸が生成しないからである。チオイックO-酸エステルのチオカルボニルは硝酸銀によるS-O交換反応で確認した。また、チオイックO-酸エステルの位置はbeta-galactosidaseとlipaseによってグリセロールの3位であると決定した。以上のことから、本有毒物質は6-sulfo-a-D-quinovosyl(1→1′)-2′-O-acyl-3′-O-thioacy1-D-glycerolと決定し、この有毒成分をTHIONSULFOLIPIDと命名した。毒性発現については、合成したPalmitothioic S-acidのHL-60に対する増殖阻害およびアカヒレに対する急性致死毒性はともにTHIONSULFOLIPIDと同程度であったことから、チオイックO-酸エステルの加水分解でできるチオイックS-酸が毒性発現の本体であると考えられた。
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