マウス乳癌由来FM3A細胞から、[2-^3H]マンノースを用いたトリチウム自殺法による選択的濃縮を経て分離されたG258株は、単一変異でリピド中間体生合成に関して温度感受性を示し、かつ、細胞増殖に関して温度感受性を示す。このことから、G258株の細胞増殖に関する温度感受性からの回復を指標に、G258株のリピド中間体生合成変異に相補的なcDNAの分離が可能になった。 今年度はG258株のリピド中間体生合成変異に相補的なcDNAの分離を試みた。G258株は、親株のFM3A細胞と同様に球状の浮遊細胞であるので、DNA移入効率が非常に悪い。日本でFM3A細胞を用いた体細胞変異株が多く分離されているが、それらの変異株を用いたcDNAクローニングの成功例は一例のみである。G258株におけるDNA-リン酸カルシウムゲル共沈法によるジェネティシン耐性マーカーの移入効率は、ポリリジンでコートしたディッシュに、低血清培地で細胞を接着させた場合でも10^<-5>〜10^<-6>である。また、電気穿孔法ではジェネティシン耐性マーカーの移入効率は10^<-4>である。この電気穿孔法によってpcD2ベクターに組み込まれたヒト肝臓cDNAライブラリーによるG258株の第一次形質転換候補株の分離を試み、得られた候補株から、アンピシリン耐性を指標に、cDNAクローンを大腸菌DH-1株に回収した。しかし、得られた一例は、pcD2ベクターそのものであることが、制限酵素による消化断片のアガロース電気泳動による泳動パターンから判明した。G258株のリピド中間体生合成変異に関する自然復帰変異株にpcD2ベクターそのものが移入されたことが考えられる。現在は、電気穿孔法による移入を更に試みるとともに、移入効率が良い他の方法を開発中である。
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