メタノール資化性酵母Candida sp.N-16に存在するNAD-依存性アルコール脱水素酵素(ADH)の2つのアイソザイムに関して、以下の点を明らかにした。1.すでに、精製方法が確立しているメタノールによって誘導される酵素(ADH M-II)について、精製標品を調製し、これこれを用いて、N-末端アミノ酸残基約20の配列を決定した。本酵素の円二色性スペクトルはZn^<2+>存在下で大きく変化し、この分析の結果は、対照として用いた亜鉛酵素で、Zn^<2+>の存在によって活性が阻害されない市販のパン酵母ならびにウマ肝臓由来の標品と著しい違いを示した。2.エタノールの利用に重要な役割を果たしていると考えられる構成的な酵素(ADHM-I)について、これをエタノールに生育した細胞よりポリアクリルアミドゲル電気泳動的に均一なまでに精製した。本酵素は、分子量12万、4万と9万のヘテロダイマーのタンパク質であった。本酵素は熱に安定なM-IIと異なり、極めて不安定であったが、硫安存在下では安定性が増加し、1.4Mの硫安存在下において50℃、30分の処理によっても70%以上の活性が残存した。活性の至適pHは7.2であった。本酵素のエタノール、NADに対するKm値はそれぞれ1.25mM、0.0625mMであった。本酵素もM-IIと同様に、低濃度のZn^<2+>の存在下においてその活性が阻害され、そのKi値は0.0535mMであった。この阻害はEDTAの添加によって完全に回復した。本酵素のアセトアルデヒド→エタノールへの還元活性は、M-IIも含む他のアルコール脱水素酵素と比較して著しく弱かった。 その他のメタノール資化性酵母、Hansenula polymorphaやPichia pastoris、のADHの炭素源によるアイソザイムの発現様式は上述のCandidaのそれとは著しく異なることが見いだされたが、細胞抽出液中の活性はいずれも低濃度のZn^<2+>によって可逆的に阻害された。
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