研究概要 |
本研究は,エノキタケの育種を目的として,(1)菌糸の生長ときのこ発生の温度特性発現,および(2)純白系品種における白色きのこ形成について,遺伝子発現を経験則から解明するものである.平成4年度は,高温品種開発の遺伝的基礎と,子実体白色化の機構の生化学的解明を進め,目標を達成する以下の成果を得た. 1.白色品種および着色品種から単胞子分離で温度特性の異なる1核系統株を多数作出し,つぎの交雑株を作出し,菌糸の生長温度特性を調べた.その結果,両方とも高温性1核菌糸間の交配では,交雑株は全て高温株であった.高温および低温株間の交配では様々な交雑株が得られ,低温株間では低い頻度で高温交雑株が作出された.つぎに,交雑株の高温性発現に関して,親株1核菌糸のそれぞれの核の影響を検討した結果,A1B1×A2B2交配ではA1B1 1核菌糸が高温性である場合が高温株出現頻度が高く,A1B2×A2B1 1核菌糸に高温株とした場合が高頻度であり,すなわちヘテロカリオン2核菌糸における2核の機能に遺伝的上下性が推測された. 2.エノキタケの白色子実体形成株について,白色株由来の2種の交配可能な1核株間の交雑2核株で着色が出現したことから,白色株の発現が色素欠損株ではないと結論した.白色および着色株の菌糸体および子実体の分析から,どちらの場合も着色に関与するフェノールオキシダーゼ(PO)活性を有するが,白色株の場合はスーパーオキサイドジスムターゼ(SOD活性がPOとの相対活性比で,通常,10倍を超える値を示し,POとその関連酵素系による褐色化をSODが阻害することで子実体の白色化が生じるものと考察された.また,本菌のSODはMn-SODであることを解明した.
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