研究概要 |
初年度研究実施計画にしたがい、まず自然界に分布する微生物、とくに細菌から低温域(15℃以下)で出来るだけ活性を発揮する酵素をスクリーニングした。モデル酵素として遺伝学的取扱いに便利なプロテアーゼ(11項1参照)と乳糖分験酵素を選び、南極大陸の湖水や土壌サンプル(11項2)、日本各地の川水や土壌サンプルから低温菌ないし中温菌を分離し、低温適応酵素生産菌の候補株を検索した。プロテアーゼについては、スクリーニング方法を検討し、所要日数を大幅に短縮、総計83株のプロテアーゼ分泌生産菌を取得、この中から10℃での活性が中温菌の生産するサチライシンBPN'の活性に比べ優秀なもの数株を見いだした。これらを含む40株のプロテアーゼの温度特性について解析した結果、低温域で高活性を示すものは種々のプロテアーゼ種の中に存在したが、低温域に活性のピークをもつ珍しいものは未だ見いだせなかった。乳糖分解酵素についてもほぼ同様にして効率よい検索法を検討し、総計58株中0‐15℃での活性が腸菌K12株よりかなり高い株2株を得た。温度特性曲線が低温域でピークをもつもの、もしくは低温域から中温域にかけてフラットのものがタンパク質工学的にきわめて興味ぶかい対象となるので、そのような特異な性質のものを自然界から発見するのが今後の課題である。 一方、第2のアプローチとして計画している方法は、すでに構造の明らかな既知の中温適応酵素を出発材料に選び、この酵素遺伝子をベクターにクローニングした後、遺伝子工学的手法(11項3,4)と新しい進化工学的手法(11項図書参照)を駆使して低温に適応させてゆく方法であるが、次年度から本格的にスタートすべくその準備実験を行った。モデル酵素をサチライシンBPN'と定め、大腸菌と枯草菌の宿主ベクター系でそれぞれ分泌生産系を構築した。現在、構造遺伝子内限定ランダム変異法と効率的な目的株スクリーニング手法を開発中である。
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