研究概要 |
本研究は,親油性かつ特有フレーバーのために食品保存への利用が限定される芥子油をアミノ酸と反応させることにより水溶性の抗菌物質への変換を図り,有用な食品用抗菌物質を開発する目的で行われた.芥子油には大根芥子油(MTBI)を用いた.まず,MTBIの安定性試験を実施し,寒天培地上,6〜8時間で大半が分解することを確認した.次いで,MTBIの分解生成物の抗菌特性解明と有効成分の単離同定を試み,分解生成物は特に抗糸状菌活性を有し,有効成分の一つはチオラクタム化合物である2-チオキソ-3-ピロリジンカルバルデヒド(TPC)であることを明らかにした.続いてアミノ酸とMTBIの反応性を検討した結果,MTBIは各種アミノ酸と反応して,新しくニンヒドリン陽性物質のほか,UV下無蛍光の物質及び鮮黄色物質を生成することを認めた.これらの反応生成物中の抗菌活性物質を特定するため,活性検出用指標菌として2種の糸状菌(Eurotium chevarieri及びCladosporium colocasiae)を使用して逆相シリカゲルを用いた各種クロマトグラフィーによる検討を行った.その結果,抗菌活性成分は逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィーにおいて,主に10%メタノールで溶出する画分中に存在することが確認された.そこでこの画分を逆相TLC及び逆相HPLCにより分離精製を行った結果,逆相TLCで低Rf画分(Rf0〜0.25)と,高Rf画分(Rf0.45〜0.70)の両画分に高菌活性が認められたが,その強度は低Rf画分の方が強力であることが認められた.以上,アミノ酸とMTBIの反応により生成する抗菌物質の分離精製は逆相シリカゲルクロマトグラフィーを利用することにより可能であることが明らかになった.抗菌活性物質のうち,特に低Rf画分中の抗菌性物質は黄色物質であることが強く示唆された.また,高Rf画分中にはニンヒドリン陽性物質を含む複数成分が存在したが,その中にMTBI由来の抗菌物質であるTPCの存在を確認した.これらの成分の量比はアミノ酸の種類により変動するものと推察された.しかし,黄色物質も含めてその化学構造の解明は今後の課題として残された.
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