カロテノイドは脂質過酸化反応に対して抗酸化作用を有し、その作用機序はカロチノイドが脂質フリーラジカルを捕捉してフリーラジカル連鎖反応を停止させることによると考えられている。本研究はβ-カロテンと脂質フリーラジカルの反応生成物を検討することによってカロテノイドのフリーラジカル捕捉反応機構を明らかにすることを目的とした。昨年度はβ-カロテンとフリーラジカル反応開始剤(AMVN)より生じさせたアルキルペルオキシラジカルの反応生成物として新規化合物6種を含む7化合物の構造を明かにした。そこで、今年度はβ-カロテンと脂質ペルオキシラジカルの反応生成物について検討した。 リノール酸メチルにβ-カロテンを加え、AMVNによって反応を開始させた。この場合、AMVNより生ずるペルオキシラジカルはまず反応系に多量に存在するリノール酸メチルと反応しリノール酸メチルペルオキシラジカルを生じさせ、次いでこれが反応系に微量に存在するβ-カロテンと反応するものである。反応生成物をHPLC分析したところ、すでに昨年度明らかにした化合物1〜7に加えてβ-カロテンよりも遅く溶出される位置に新たな化合物8が認められた。化合物8はHPLCで分離してその構造を検討したところ、β-カロテンに少なくとも2分子のリノール酸メチルが酸素原子を介して結合した構造であった。しかし、化合物8の構造はβ-カロテンとリノール酸メチルの結合位置などについて詳細に決定することはできなかった。これらβ-カロテン反応生成物のリノール酸メチル中における生成と消失の挙動はHPLCを用いて調べたところ、β-カロテンの減少にともない化合物1〜8が生成しそのうち化合物8は他の化合物に比べて反応系に多量に蓄積した。以上の研究結果より、β-カロテンは脂質ペルオキシラジカルを直接捕捉して非ラジカル生成物を形成することによって脂質過酸化反応を抑制していることが明らかとなった。
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