研究概要 |
すでに本研究者らは,タンザニア・マハレ公園において調査された野生チンパンジーの薬用的利用植物の生理活性について検討を加えていた。本年は,それらのうち,最も薬用的利用が明確なキク科Vernonia amygdalinaについて研究した。本植物には顕著な抗腫瘍,免疫抑制,抗菌活性等が認められた。これらの活性を担う物質は,vernodalinを初めとする既知セスキテルペンラクトン類であることを明らかにした。また,活性に対するvernodalinの構造的必須部位を究明した。一方,その独特の苦味を指標に,上記ラクトン類と共に,新規なステロイド配糖体類(含苦味:vernoniosideA_1-A_4,非苦味:vernoniosideB_1,B_2)を単離・構造決定した。本植物を採食した疾病チンパンジーは寄生虫症であったとの推察から,上記化合物について,住血吸虫,マラリア,睡眠病原虫などの熱帯性寄生虫に対する効果をin vitre系で検討した。その結果,セスキテルペンラクトン類には住血吸虫,マラリア,睡眠病原虫などに,またvernonioside類では,その主要成分B_1に住血吸虫に対して活性を認めた。さらに,配糖体類の糖部を除くと,住血吸虫ばかりでなく,マラリア,赤痢アメーバーにも活性が認められるようになることが判明した。活性のより強いセスキテルペンラクトン類は毒性が強い。また,疾病チンパンジーが利用した茎部髄にはラクトン類の主成分vernodalinが存在しない(葉には多量に存在する)ことから,チンパンジーは毒性の強い葉を避け,髄を採食し,含まれるステロイド関連化合物にて寄生虫症をコントロールしている可能性が指摘できた。最近,より意義の高い遊離ステロイド類の存在を見出し,これらの化学的,生理活性的研究を展開している。上記研究の他,さらに多数の植物について広く生理活性を検討し,トリプシンやアロマターゼ阻害成分を含む植物を数種見出し,これらについては次年度以降の研究に組み込む予定である。
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