研究概要 |
植物病原菌のAspergillus nigerの液体培養中から分離されたマルホルミン類の化学構造を決定するとともに、各々の類縁体の植物に対する活性と、植物に対する種々の生理的な作用を解明するための研究を行なった。 本研究では高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて各成分を分離し、菌株59-39からはA1,A2,A3,A4の4種の類縁体を、菌株56-30からはB1a,B1b,B2,B3,B4,B5の6種の類縁体を得た。さらに、質量分析計・アミノ酸分析・2次元NMRによってすべての化学構造を決定した。 緑豆上胚軸の伸長活性試験では、A1とA3とB2が10^<-7>mol/lの濃度で著しく伸長を促進した。このことからマルホルミンの第5アミノ酸残基が、L-イソロイシンやL-ロイシンの場合に伸長活性を示すがほかのアミノ酸では活性を示さないことが明らかになった。一方トウモロコシ根部屈曲試験の結果では、A1とB1aとB3に著しい活性が10^<-7>mol/lで見られた。ここでは第5アミノ酸残基が、L-イソロイシンやL-アロイソロイシンの場合にほかのアミノ酸に比べて強い活性を示した。これら2種の植物体で異なる結果が得られたことは、双子葉植物のトウモロコシと単子葉植物の緑豆ではマルホルミン受容体が異なる3次元構造を採っていることが強く示唆された。 続いて、マルホルミンによるムギ未熟種子のα-アミラーゼ阻害を調べた。その結果、マルホルミンはα-アミラーゼを阻害することはなかった。しかし、植物ホルモンのジベレリンによって誘導されるべきα-アミラーゼを強く阻害した。そのさい全タンパク量に変化は見られなかった。また酸性フォスファターゼを測定した。ジベレリンは10^<-7>-10^<-8>mol/lで酸性フォスファターゼを強く誘導した。これにマルホルミンを加えても特に変化は見られなかった。 これらのことから、(1)マルホルミンはα-アミラーゼを阻害することはないが、ジベレリンによる誘導を阻害すること。(2)マルホルミンは酸性フォスファターゼを阻害しないし、ジベレリンによる誘導を阻害することもない。これらの事実からマルホルミンの植物に対する作用性は植物ホルモンのジベレリンの作用を抑えることにあることが明らかになった。
|