研究概要 |
我々の研究室ではマウス上皮細胞balb/MKの静止細胞を用いてEGF刺激によって誘起されDNA合成の開始を低濃度で阻害するepiderstatinを一放線菌Streptomyces pulveraceusより単離した.その平面構造はNMR解析により推定された.本化合物はグルタルイミド系の物質であるが,構造の左半分にアルキリデンラクタム環を有する点に特徴がある.本物質は10ng/mlという低濃度で,静止期にある細胞のEGFによるDNA合成誘導を阻害する.これに対しgrowing cellのDNA合成阻害濃度には数十倍の開きがある. このことは本物質が細胞周期のGO期からS期に至るのに必要な機能を選択的に阻害していることを示唆している.さらに興味深いことに本物質は低濃度で温度感受性にv-srcでトランスホームしたNRK細胞の形態を正常の形態に復帰させた.癌遺伝子srcの発現と細胞の増殖因子によるシグナル伝達との間の共通の部分があることを示唆させるものであるが,本物質の作用に関して更なる追及が必要である.本物質の問題点は収率が著しく低いことであり,効率的な合成法の開発が必須である.本研究ではその立体構造を確定し,合成法を確立した。 即ち立体化学を明らかにする目的で分子力場計算を行った。その結果を考慮してNMRを検討し相対配置を推定した。さらに、その過程でX線結晶解析に適する単結晶の析出を認め、X線結晶解析を行った。CDを測定し、分子力場計算、X線結晶解析、NOE実験の結果を基にアリル位のアキシアル置換基によるコットン効果からその絶対配置C3S、C5Sと決定した。合成に関しては分子内アミドセレニル化/酸化的脱保護を用いた鍵反応の開発に成功し、Epiderstatinとその異性体の合成に成功した。この際ラクトンを相応するニトリアルデヒドに変換する新しい反応を開発した。
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