筆者らの研究によれば、樹齢30〜40年生以上のスギ林下の土壌では、カルシウムをはじめとする塩基が多量に蓄積し、林齢とともに表層から下層へと蓄積層厚を増した。このような塩基の蓄積、pHの上昇とともにA_0層から可給態窒素やカリウムの供給も潤沢で、少なくとも普通伐期以上に達すると、スギ林では主要な地力構成要素が著しく向上することを明らかにした。これらの傾向は若齢スギ林、ヒノキ林、および広葉樹林下の土壌では認められず、ヒノキ林ではむしろ地力が減退することから、スギが共存する林型での複層林や混交林が地力を維持・増進させる可能性を強く示唆した。 上記の予想は林型や土壌の違いによって差異はあるものの基本的には確認できるという成果が得られた。以下に概要を列記する。 〈混交林〉スギ・ヒノキおよびアカマツ・広葉樹混交林について岩手と栃木の6林分で調査した。いずれもスギを主木とする混交林はヒノキあるいは広葉樹を主木とする混交林下の土壌よりもA_0層の現存量が多く、ha当りのリン、カルシウム、窒素量が多かった。鉱質土層でもスギを主木とする林分ほど、交換性カルシウムなどの塩基、リンなど蓄積傾向がみとめられ、土壌pHは上昇した。この傾向は土壌の塩基飽和度の低い北関東の黒ボク土で一層明瞭であった。 〈複層林〉スギ、ヒノキおよび広葉樹を含む複層林についてて栃木、千葉、岐阜など8林分で調査した。いずれの場所も上木、下木がスギで一定以上の林齢に達した林型では、上木がヒノキや広葉樹、下木がヒノキなどの林型の場合よりもha当りのA_0層が多く、したがって窒素、リンおよびカルシウムも多く、鉱質土層におけるこれらの成分の富化傾向がみとめられた。こうした傾向は塩基飽和度の低い土壌の方が高い場合よりも、また礫含量が低い土壌の方が逆の場合よりもそれぞれおおきかった。
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