研究概要 |
森林土壌の共生系に対する環境収容力を解明するための研究の一環として,林内の尿素施与地における外生菌根形成能を調査し,その林のもつ潜在的な外生菌根形成能を調査した。長野県菅平のミズナラとシラカンバが優占する混交林の林床,及び千葉県清澄山のアカガシ,モミ,アカマツが優占する混交林の林床にそれぞれ800g/m^2の割合で尿素を施与したところ,両試験地共に尿素無施与地(対照区)では7種以上の外生菌根が発生したのに対して,菅平の尿素施与区ではアシナガヌメリとモリノニオイシメジが,清澄山の尿素施与区ではアシナガヌメリとオオキツネタケのそれぞれ2菌種ずつ発生したことから,施与地では発生菌の菌相が単純化することが判明した。一方,子実体の発生数は,施与地の方が高い値を示した。菌根形成がみられたH-A層の土壌では,アンモニア菌の一種であるアシナガヌメリの菌根の発達時に土壌微小菌,土壌総細菌,及びクリスタルバイオレット耐性菌の現存量が減少した。清澄山の尿素施与地における施与年度の外生菌根菌の発生子実体の乾燥重量は30.5g/m^2年であり,対照区における発生子実体の乾燥重量の約95倍であった。尿素施与地における施与後2年目の外生菌根の発生子実体の乾燥重量は減少したが,発生量は対照区の約2倍であった。これらの知見から,尿素施与により森林の環境収容力を推定するには施与初年度の発生量に基づくことが有効であり,この方法を用いて求めた共生系に対する森林の潜在環境収容力は,通常の条件での,即ち微生物間競争の強い条件下での,共生系に対する森林の環境収容力の少なくとも95倍以上であると推察した。
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