広葉樹林を構成する樹種とそれらの組成や構造は林分によって様々である。したがって、広葉樹薪炭林を用材林に転換するためには樹種の特性に見合った取り扱いが必要となる。 このような観点から、本研究は、高木性樹種の組成と構造が単純な薪炭林から、樹種構成が多様で天然林に似たモザイク構造を持った広葉樹用材林へと誘導することを目的として、ブナ・スギ・トチノキなどが混交する天然林における複数樹種の更新初期過程、ならびに、かつて施業が行われていた二次林と択伐林の更新や成長特性について調査した。 その結果、ブナとともに混交するスギ、トチノキ、イタヤカエデなどの冷温帯林の構成樹種は、自然攪乱や択伐などで生じるギャップの内外に、それぞれ異なった定着特性を示した。天然林での定着パターンからは、稚樹を被陰するササや低木種からの脱出、また、耐陰性を反映したギャップ内外の定着場所とともに種子散布者の役割の重要性を指摘した。 一方、ブナ・ミズナラ二次林での調査結果からは、林分の成長に伴う樹種ごとの成長パターンの有意な違いが樹種に特有な樹冠の形成特性に起因する可能性が認められた。また、ブナ択伐林での種子落下量と発芽実生の調査によって、天然更新の基準となる母樹密度を具体的に提案することができた。 多くの制約の下での研究のために応用的な面からの具体的な提案が十分ではなかったが、引き続き施業への応用のための試験研究を行う予定である。
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