1.本研究の主要対象は、代表的な旧薪炭林地帯である島根県と岩手県であるが、2県の県行パルプ造材(岩手県の場合は、特殊材備蓄林県行造林と呼ぶ)の現状は、かなり異なっていた。すなわち、島根県の場合は、マツクイムシの被害を受けたアカマツ林が多い上、契約期間が短いものは35年(標準伐期齢も35年)で分収することになっている。近年早いものは分収の時期にきているのであるが、十分な蓄積がなく、ほとんど分収ができないという契約森林が多い。一方、岩手県の場合は、県南の一部にしかマツクイムシ被害が出ておらず、その被害も全面的なものではない。成長がやゝ遅く(標準伐期齢は40年)、契約期間も長いため、まだ分収の時期に来ているものは少ない。現在もアカマツ材は主としてパルプ原料として利用されており、生産材も、基本的には資金提供者である十條製紙に引き取られる。したがって、島根県の場合ほど深刻な状態とはなっていない。しかし、もちろん本材の市場価格が低迷しており、パルプ材価格も安い。マツクイムシの被害がないとしても、それぞれの分収権者が納得のいく金額で分収が行われているとはいいがたいものがある。どちらにしても島根県と岩手県の県行パルプ造林の様相はかなり違っているといえよう。 2.島根県の場合、県行パルプ造林の資金提供者である製紙会社側の対応は、それぞれの契約地毎の最近の林況調査結果とそれに基づく対応方針の概要をふまえ、資金負担者としての会社側の施業方針をたてている。すなわち、標準的施業実行基準を設け、枝打ち以外はスギやヒノキ並みの労働・資金の投入を行ない、保育・管理に努めるというものである。しかしそれにもかかわらず、マツクイムシ被害のために指針通りにはいかいない場合があり、かなりの部分の伐期を上げることで一般建築材生産用としての販売可能性を見出そうとしている。
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