降雨が斜面に浸透し貯留され、その後、崩壊にいたる過程はひとくちでいえば斜面土層における水収支である。また、土中水に関連したもっとも重要な土質工学的パラメータは間隙水圧である。この研究では、「水収支」と「間隙水圧」の2つの語をキーワードとして実験的に考察をすすめていった。代表者である日浦は実験斜面に人工降雨を降らせて崩壊に至らせるという崩壊過程の中で浸透水の浸透速度、斜面からの流出水の量、崩壊発生時の間隙水圧の計測を行った。また、分担者である海堀は間隙水圧の消散過程に焦点を当てた実験的研究を進めていった。3年間の成果をひとつの流れとしてまとめると以下のようになる;1)発生した崩壊のタイプは2つに大別される。ひとつは斜面からの流出が始まるまでに一気に流下するタイプと、もうひとつは斜面からの流出量が一定に収束してから発生するタイプである。2)降水の浸透速度を表わすために体積含水率という指標を導いたが、この指標によって降雨の浸透状況をみると土層条件・降雨強度によらず初期に大きく、その後は一定値に収束する。3)供試土は砂質土であるが表土層の移動にクリープ的な挙動が見られた。体積含水率、流出量と移動量との間には特定の関係は見られない。4)崩壊時には土層厚さの1.5倍の過剰間隙水圧の発生するものもあったが、崩壊発生を予兆するような間隙水圧の挙動は計測されなかった。5)人為的に斜面崩壊を起こした時に発生する過剰間隙水圧は自然発生した崩壊の場合に比べて消散時間が短い。6)標準砂、花崗岩砂と水の混合物を用いたかき混ぜ実験では、シルト分以下の細粒の粒子の含有割合の多少が間隙水圧の消散時間に大きく影響する。同じ試料を用いた高濃度の震動実験では、震動停止とともに間隙水圧は消散する。
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