本研究の目的は、木材のニオイの特性を、心理学的、生理学的および化学的側面から究明することにある。得られた結果の概要は、つぎのとおりである。 1.グラフ理論によるイメージの構造分析:11種類の材料の「材料らしさ」について、ISM法とDEMATEL法を適用して、イメージ項目の階層構造、並びにイメージ項目間の影響と関係の強さを検討した。各材料は、前者のモデルからは、1)感覚項目主導型、2)機能項目主導型、3)中立型に、後者のモデルからは、1)イメージ収束型、2)イメージ分散型、3)共存型に分類できた。木材は、感覚主導型でイメージ収束型に属する。 2.SD法による材料のニオイの意味空間の構成:23種類の材料と10種類の植物精油のニオイについて、因子分析を行った。その結果、3因子が抽出され、それぞれ認容性、質、および強さと命名した。木材のニオイは、快く、はっきりしているが強くない、自然なイメージを有している。視覚的な手掛かりを与えた場合には、ニオイのみのときに比べてばらつきが小さくなる。男女差はない。 3.木材および精油のニオイの成分分析:材表面からの揮発成分および精油(超臨界二酸化炭素抽出および熱水抽出法)のヘッドスペースガスをガスクロマトグラフィで分析した。ニオイの成分はモノテルペンであるが、ニオイの発生源の違いによって、構成割合および濃度が大きく異なる。材表面から揮発するニオイの成分と濃度は、温度の影響を大きく受ける。 4.木材のニオイと覚醒水準:前頭部から導出した随伴性陰性変動(CNV)を指標とした。供試した7種類の針葉樹材すべてのニオイは、覚醒水準を減少させるように作用する。すなわち、木材のニオイには鎮静効果がある。
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