糸状菌Phanerochaete chrysosporiumによるセルロース生分解と2種のセロビオース脱水素酵素であるセロビオース酸化酵素(CBO)ならびにセロビオース:キノン酸化環元酵素(CBQ)の誘導について調ベた。セルロースを基質とする培地で本菌を培養すると、対数増殖期から培養後期にセロビオース脱水素酵素活性が増加する。CBOとCBQはチトクロムCの環元において、前者が効率的に環元するのに対して後者は出来ないことにより、明瞭に区別される。このことから、対数増殖期には主としてCBOが生産され、CBQは培養後期になって著しく培地中に蓄積されることが明らかとなった。したがって、本菌によるセルロース生分解時に一次的に生産されるセロビオース脱水素酵素はCBOであり、CBQは二次的な産物であることが示唆された。このような理由から、以後の実験にはCBOを用いることにした。 セルロースを基質として本菌を培養した培養液からDEAEイオン交換クロマトグラフィーを用いて、CBO、エンド型セルラーゼならびにエキソ型セルラーゼを分離精製し、各々の酵素が綿セルロースの可溶化に与える影響を基質の重量減少から評価した。その結果は、エンド型セルラーゼならびにエキソ型セルラーゼの組み合わせのみが、綿セルロースの可溶化に大きな影響を与え、CBOは綿セルロースの可溶化に対しては大きな貢献をしていないことが示唆された。CBOに対して酸素よりも良好な電子受容体であるキノン化合物や鉄化合物を添加した反応系でも、このことは同様であった。CBOのセルロース生分解での役割は依然として不明であるが、培地中の蓄積されたCBO量(20mg/l程度)を考慮すると、CBOの重要性については疑いの余地はない。今後は、本菌によるセルロースのエネルギー代謝という点により着目し、セルロース生分解時におけるCBOの電子受容体とその役割について検討を加えて行く。
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