Phanerochaete chrysosporiumの生産するセロビオース脱水素酵素のうち、セルロース生分解に関与していると思われるセロビオース酸化酵素(Cellobiose oxidase:CBO)の機能について解析をおこなった。 ホヤの外套膜から調製したセルロースのミクロフィブリルにCBOを吸着させ、抗体-金コロイド法を用いた透過型電子顕微鏡によりセルロースに対するCBOの吸着状態を観察した。その結果、CBOは高結晶性のミクロフィブリル表面には結合せず、ミクロフィブリルに付随した非晶性領域と思われる部分にのみ吸着されることを明らかにした。また、15量体の不溶性高結晶セロオリゴ糖にCBOを作用させても、セロオリゴ糖の還元末端の酸化はほとんど観察されず、濁度変化の観察などによってもCBOがセロオリゴ糖の結晶構造を分解している様子は認められなかった。さらに、セルラーゼによるセロオリゴ糖の可溶化に対するCBOの相乗効果は認められなかった。したがって、CBOはセルロース結晶構造の分解には直接的には関与していないことが強く示唆された。 一方、7量体の可溶性セロオリゴ糖に対して、CBOはセロビオースに対するのと同程度の速度で還元末端を酸化することができた。しかしながら、CBOにはカルボキシメチルセルロース(CMC)の還元末端は酸化できず、またCMCを加水分解する能力(エンド型グルカナーゼ活性)は認められなかった。CBOによる可溶性セロオリゴ糖の還元末端の酸化は、セルラーゼによるセロオリゴ糖の再重合化を抑制し、セルロース分解生成物をセロビオノラクトンに限定すると考えられる。CBOの電子受容体についてはFe(III)錯体であることを明らかとしたが、菌体外液にはこのような錯体化合物を見いだすことはできなかった。したがって、CBOの電子受容体は菌体膜上に存在している可能性が高い。以上のことから、CBOはセルラーゼによるセルロース分解生成物の菌体内への取り込みと、その後のエネルギー代謝において重要な役割を果たしていると考えられた。
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