毒性有機塩素化合物の環境に対する排出源のうちでパルプ工場は主要なものの一つである。本研究では、化学パルプ製造工程の排液に含まれる有機塩素化合物が環境に与える影響を評価する上で基礎となる知見を得ることを目的としている。 塩素チャージ量を種々に変えて、広葉樹クラフトパルプ、広葉樹酸素前漂白クラフトパルプ、針葉樹クラフトパルプを塩素漂白、アルカリ抽出の逐次処理を行い、塩素段排液およびアルカリ抽出排液を得た。またアルカリ抽出を行っていない塩素処理剤みパルプから含水ジオキサン抽出によって、残留塩素化リグニンを得た。これらの試料について、各種の化学分析を行い、広葉樹由来の塩素化物が、針葉樹由来のものとは構造的にも生成挙動的にも異なっており、塩素段で溶出する割合が高いこと、また低分子物に富むことなどの理由から、広葉樹が環境に直接与える影響が針葉樹に比ベ大きくなることを明らかにした。なぜならば、塩素処理で生成した有機塩素化合物の毒性はアルカリ履歴をへることによって低下するが、塩素段で溶出したものはアルカリ履歴を経ずに環境に放出されるからである。 一方、塩素漂白で生成する有機塩素化合物が環境中でどの挙動するかをモニターする目的で、排液中の塩素化フェノール等の低分子物をリグニン分解菌Phenerochaete chrysosporiumで処理した。その結果、メチル化物が高収率で生成することが明らかになった。これは、生体蓄積性が高まる方向で、すなわち毒性の高まる方向で、自然界での分解が進み得ることを示す。また塩素化フェノールは、本菌の分泌する代表的菌体外酵素であるリグニンペルオキシダーゼによって容易に酸化されるが、その際、反応液中に存在するベラトリルアルコールの酸化を独特に形態で阻害する。その阻害の形態について解析した。
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