パルプ漂白排水中の有機塩素化合物の生成機構と性状に関して次の結果を得た。1)広葉樹材では、針葉樹材とは異なり、アルカリ抽出段よりも塩素段での有機塩素の排出が格段に多い。このことはアルカリ処理という一種の脱毒過程を経ずに環境に放出される塩素化リグニンの割合が高いことを意味する。2)前処理として酸素脱リグニンを行うと、二重結合、カルボニルと共役した位置の有機塩素の比率が増大するので、突然変異原性が高くなることが懸念される。 有機塩素化合物の代表的測定法であるAOX法が正しい有機塩素量を与えるか否かを検討した結果次の結論を得た。1)アルカリ抽出段排液のAOX値は正しい有機塩素量を示すが、塩素段排液のAOX値は、正しい値の約2分の1にしかならない。2)これは、塩素段排液の有機塩素の多くが極めて不安定であり測定中に無機塩素として脱離することによる。 塩素化リグニンの環境中での挙動を知るモデルとして、白色腐朽菌Phanerochaete chrysosporiumを用いて漂白排水中に含まれる低分子有機塩素化合物の代表的なものであるジクロログアイアコールを処理し次の結果を得た。1)フェノールオキシダーゼ活性などの菌体外の二次代謝活性の発現後はジクロログアイアコールの酸化分解あるいは酸化重合は極めて迅速に進行するが、それ以外の時期はフェノール性水酸基のメチル化が主反応である。2)メチルかされたジクロログアイアコールはリグニンペルオキシダーゼによって酸化されなず、菌自体によっても分解されない。3)したがって、塩素化リグニンは環境中で分解ではなく蓄積される方向に向かう可能性がある。
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