広葉樹リグニンの化学構造は均一ではなく、細胞壁の部位によって異なることが知られている。すなわち、細胞壁形成の初期に急速に沈着する複合細胞間層リグニンは、二次壁リグニンに比較して明らかに縮合型に富む結合様式からなっている。 本研究においては、このようなリグニン化学構造上の特徴との樹木の成育特性との関連を明らかにすることを目的とした。そのための試料としては、同一樹種の樹木で同一の成育環境に成育し、かつ成育速度の異なるものを使用する必要がある。このような観点から広く検討した結果、本学北海道演習林内に成育し、アテ材を含まず、ほぼ胸高直径の等しい樹齢21年の通常種ドロノキ材、および16年生の早生種ドロノキ材を最適の試料と判断し、これを使用した。両材の胸高直径および樹齢から概算した成長速度は、後者が前者の約1.5倍であった。両材を円盤状に切断したのち、半径方向に心材中心部、心材周辺部、移行材部、辺材内部、辺材外部の5区分に分別し、その各々から調製した60-80メッシュのアルコール・ベンゼン抽出済木粉中に存在するリグニン含有量をアセチルブロミド法により定量するとともに、その芳香核構造をアルカリ性ニトロベンゼン酸化分解によって検討中である。また、芳香核構造および側鎖構造に関する一層詳細な検討を行うために、過ヨウ素酸リグニンおよび摩砕リグニンを調製中である。
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