東京大学北海道演習林に生育するポプラ(ドロノキ)早成樹および通常樹のそれぞれから、最も標準的な個体を選別し、その胸高部材について、樹幹内におけるリグニンの分布を明らかにするとともに、各部位リグニンの化学構造の相違を両材について比較検討した。その結果、リグニン量には明瞭な差異は認められないものの、アルカリ性ニトロベンゼン酸化によるアルデヒド類の収量には著しい差が認められた。すなわち、早成樹材中のリグニンからは相対的にシリングアルデヒドの収量が多く、シリングアルデヒド/バニリン比は、通常材の1.5に対し、2.0に達した。また、メチル化過マンガン酸カリウム酸化においても、分解生成物中のトリメチルガッリク酸のベラトルム酸に対するモル比が、通常樹材の1.22に対し、早成樹材では2.32となり、明らかにこれを支持する結果が得られた。縮合型構造の量および構造の詳細を分解反応生成物から明らかにすることは出来なかったが、両リグニン中における結合様式の偏り、すなわち炭素-炭素結合の寄与、および低分子区分の存在量および性状については明らかな相違が認められた。これを裏付けることを目的として、木材切片および単離リグニンを使用して行ったFT-IR分析では、現状では明瞭な相違を確認するに至っていないが、これは装置上の問題によるものと考えている。したがって、以上の結果は、同一樹種であるにもかかわらず、生長の極めて速い早成樹材中のリグニンが、通常材中のリグニンと異なり、シリンギル核に富み縮合の程度の低い芳香核構造を有していることを示唆しており、早成樹材がパルプ化反応における脱リグニン特性に優れていることを窺わせる。
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