紙パルプあるいは木質材料の製造原料として、早成樹材に対する関心が世界的に高まっている。これは将来の増大する木質原料に対する需要を、早成樹材の利用なくしては満たすことが出来ないことによる。しかし、早成樹材の有効な利用を計るには、その化学的特質を明らかにしておく必要がある。 本研究においては、早成樹材の特質をリグニン化学構造の観点から明らかにしようとした。すなわち、東京大学北海道演習林において、ほぼ同一の環境条件において成育した、それぞれ樹齢20年および16年のポプラ通常樹材および早成樹材を1992年12月に伐採し、それらの胸高部位の樹幹を使用して以下の検討を行った。なお、胸高部位における直径から判断すると、早成樹材の成長速度は通常樹材の約1.5倍であった。 各年輪部位について詳細に検討した結果、両材のリグニン量には明らかな相違を見出すことは出来なかった。しかし、リグニンの化学構造には明瞭な相違の有ることは明らかとなった。アルカリ性ニトロベンゼン酸化によるシリングアルデヒド(S)およびバニリン(V)の収量比(モル/モル)は、通常樹材が1.51であるのに対して、早成樹材では2.32であった。このことは、非縮合型構造単位については早成樹材リグニンがシリンギル核に富んでいることを示している。このことは今一つの酸化分解反応であるメチル化過マンガン酸カリウム酸化においても確認された。すなわち、非縮合型グアイアシル核に由来するベラトルム酸(V)と非縮合型シリンギル核に由来する3、4、5-トリメトキシ安息香酸(T)の収量比(モル/モル)は通常樹材が1.22であるのに対して、早成樹材では2.32であった。リグニン構成単位間の結合様式および分子量分布に関して、過ヨウ素酸リグニンを試料として検討した結果、それぞれに相違があることは明らかとなった。しかし、これについては更に詳細な検討が必要であろう。 非縮合型シリンギル核に富む早成樹材リグニンの特性を考えるならば、早成樹材がアルカリ蒸解における脱リグニン特性に優れているといえよう。今後は、このような性状が早成樹材に共通の特性であるか否かについて明らかにすることが必要である。
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