(1)木材とバクテリアならびに藻類のセルロースミクロフィブリル(CMF)の違いを明らかにした。すなわち、木材の粉末試料を脱リグニン・脱ヘミセルロース処理し、処理前後の格子面間隔を詳細に検討した結果、精製前のCMFはその一部が藻類・バクテリア型を示していたのに対し、精製後はすべてがコットン・ラミー型に変わった。ところがコットン・ラミー型の中でも、針葉樹材と広葉樹材との間で、依然として面間隔に違いがあり、両者のセルロースには何らかの違いがある。 (2)細胞壁が木化しているか否かでCMFの力学的性質が異なることを見いだした。すなわち、ラミー繊維(非木化)とスギ(木化)を選び、引張試験を行うと共に高次構造を比較した。引張試験では繊維歪を測定すると共に、(004)面回折点の変位量からCMFの分子鎖方向の結晶歪を算出した。結晶歪に対する繊維歪の割合は木材では略1であったが、ラミーでは1/3〜1/2でしかなく、木化がCMFの表面性状に深く関わっていることが分かった。セルロースII、IIIラミー繊維は、結晶化度は影響ないが、結晶弾性率が低下し、内部表面積が変化することが分かった。 (3)αキチンの結晶空間群がP2_12_12_1であることを明らかにした。すなわち、セルロースと同じ分子鎖骨格を持つキチンにはαキチンとβキチンの2変態があり、酸処理でβキチンは平行鎖構造(P2_1)から逆平行鎖構造(P2_12_12_1)のαキチンに不可逆的に変態する。ところが、αキチンの電子回析では空間群P2_12_12_1の禁制反射が観測されるので、空間群の是非が問題であった。ヤムシの捕獲牙のαキチンをX線回折、電子回折によって詳細に検討した結果、禁制反射は多重回折によるもので、αキチンの空間群はP2_12_12_1である。したがって、変態の不可逆性は分子鎖の極性の変化に基づく可能性が大きく、キチン微結晶の生合成システムで逆平行鎖構造の生合成があることが判明した。
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