平成4年度は本研究の第1年目であり、まず木材腐朽菌類や木材汚染カビ類に対するキトサンの抗菌性の有無を検討した。その結果、キトサンの抗菌スペクトルは狭く、キトサンはカワラタケに対して顕著な生育抑制効果のあることが分かった。次に、キトサンを塗布した木材スライタ片でカワラタケに対する防腐効果を評価するとともに、その発現メカニズムについて、微細構造的に検討した。高分子キトサン希乳酸溶液(1.5%)を表面付着固形分で40-50g/m^2塗布したスライス片では、4週間強制腐朽後も、強度残存率はほぼ100%であったのに対し、無処理試験片では約15%にまで低下していた。木材表面に高分子あるいは低分子化したキトサンを塗布することにより、カワラタケに対して顕著な防腐効果が得られた。さらに、強制腐朽したキトサン塗布木材スライス片の表面を、SEMで詳細に調べたところ、カワラタケ菌糸と接触していたキトサン被膜表面が僅かに溶解されたようになっており、同時に菌糸自体も著しく変形(衰弱)あるいは部分的に破損しているのが認められた。このことは、キトサンの抗菌性発現メカニズムと関係していると思われる。すなわち、菌糸がその壁表面でキトサン分子を認識することによって、菌体外酵素分泌系に何らかの作用を引き起こし、同時に菌糸壁の分解酵素も分泌したものと推定される。この点については、次年度も引き続いて検討する。最後に、キトサンの効果的な木材防腐処理法の開発を目指して、キトサンと市販CCA系防腐剤とを併用処理した木材の防腐効果についても、検討した。併用処理によって、CCA防腐剤成分は、細胞壁表面に集中的に付着することが走査型X線微小分析により、確認された。さらに、併用処理によって、カワラタケだけでなく、オオウズラタケに対しても、従来のCCA処理濃度の半分の濃度で腐朽を効果的に抑制できることが判明した。
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