本研究の最終年度である平成5年度においては、キトサン塗布処理木材の木材腐朽菌類(担子菌類)に対する耐朽性発現機構について検討するとともに、キトサンの木材保存剤あるいは食用菌の原木栽培時の害菌防除剤としての利用の可能性について検討した。(1)耐朽性の発現機構について:リグニンを分解してからでないと多糖類を分解することのできない白色腐朽菌(カワラタケやシイタケ)に対しては、キトサンがリグニン分解酵素の分泌システムに阻害的に作用すると同時に、キトサン分解酵素の分泌システムを起動させる働きのあることが推定された。これにより、キトサン処理木材は白色腐朽菌による腐朽を阻止するだけでなく、菌糸壁自体の分解による殺菌作用もあることが分かった。これに対して、リグニン分解酵素をほとんど分泌せず、多糖類のみを選択的に分解する褐色腐朽菌(オオウズラタケ)に対しては、キトサンが酵素分泌系に関与することはほとんどなく、したがって耐朽性を付与することも少なかった。(2)木材保存剤あるいは害菌防除剤としての利用の可能性について:キトサンと市販の水溶性(金属系)木材防腐剤とを併用して木材を処理することにより、従来の処理濃度よりかなり低い濃度で従来と同程度の防腐効力を発現させることに成功した。また、シイタケ原木に接種した種駒の打ち込み面ををキトサン溶液で処理することにより、その部分からの害菌(トリコデルマ)の侵入を効果的に防ぎ、種駒の活着率を高めることができた。これらのことから、キトサンは金属系水溶性木材防腐剤の助剤として、あるいは食用菌の原木栽培時の害菌防除剤としての利用の可能性のあることが分かった。
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