本研究では、キトサンのもっている抗菌性、木材表面での被膜形成能、金属イオンとの錯体形成能などの諸特性を活かすことによって、全く新しいタイプの木材保存処理法を開発することを目標として、幾つかの基礎的検討を行った。まず、典型的な木材腐朽菌類に対するキトサンの抗菌性を調べ、次にキトサン処理した木材の防腐性能を評価し、効力のあるものについてはその発現機構を微視的に調べた。さらに、キトサンと市販防腐剤との併用処理による低毒性木材防腐処理法を考案し、その防腐効力を評価するとともに、シイタケ原木栽培における害菌防除にキトサンの応用を試みた。これらの研究成果の概要は以下の通りである。(1)木材腐朽菌類や木材汚染カビ類に対するキトサンの抗菌スペクトルは狭く、白色腐朽菌(カワラタケ、シイタケ)に対してはその生育を顕著に阻害したが、褐色腐朽菌(オオウズラタケ、ナミダタケ)やカビ類にはほとんど効果がなかった。(2)白色腐朽菌に対する抗菌性は、キトサンがリグニン分解酵素の分泌を阻害すると同時に、分泌したキトサン分解酵素によって菌糸壁自体が一部破壊することによって、発現するものと推定した。(3)キトサンと金属塩系水溶性防腐剤を併用して木材を処理することにより、キトサン単独処理では効果のなかった褐色腐朽菌に対する防腐性能を効果的に高めることができた。とくに、キトサンを助剤として用いることにより、従来よりかなり低濃度の処理で従来と同程度の効果が得られた。このことにより、低毒性木材防腐処理法の開発に向けた手掛かりを得ることができた。(4)シイタケ原木栽培において種駒打ち込み面にキトサンを塗布することにより、この部分からのトリコデルマの侵入を効果的に抑え、種駒活着率を高めることができた。キトサンの超安全性を考えると、これを用いた害菌防除法の有用性は今後更に検討する必要がある。
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