1)粘液胞子虫Myxobolus artusに自然感染したコイの体側筋を、常法に従い、組織学的に検討した。ほとんどのシストは筋繊維の束の間に形成されていたが、まれに筋繊維内に存在するシストもあった。また、筋繊維間のシストのうち、宿主の被包が部分的に不完全なものもあった。胞子形成を終えた成熟シストのうち、筋繊維内のシストや被包が不完全なシストはみつからなかった。M.artusのシストは筋繊維間で宿主の結合織によって完全に被包されるのが正常な発育形態と考えられる。従って、筋繊維内のシストや被包が不完成なシストは正常に発育せず、胞子形成終了前に崩壊するものと考えられた。 2)M.artusの寄生とコイの抗体保有との関連を調査した。まず、胞子の超音波破壊によって得た胞子原形質と羊赤血球を用いた受身赤血球凝集反応によって抗体価を測定した。その結果、寄生を受けていたコイ(=胞子が検出された魚)と抗体保有との間には明確な関連は認められなかった。 3)寄生体のどの発育ステージがコイに対して抗原性を有しているかを調べた。胞子、胞子超音波破砕物、発育中のステージ(胞子形成前の栄養体、胞子芽細胞などを含む)など、寄生体を種々に調整し、コイに腹腔内接種して、前項の方法で抗体価を測定したところ、発育中のステージを接種した群にだけ抗体産生が認められた。 4)以上の結果から、コイM.artusに対する抗体産生機構を想定した。まず、異常な発育を示すシストが胞子形成終了前に崩壊する。すると、胞子形成前の栄養体や胞子芽細胞など、宿主に対して抗原性のある寄生虫のステージが宿主の免疫系にさらされ、その結果として抗体が産生される。これに対して、正常なシストでは、胞子形成終了後に、胞子のみが免疫系にさらされる。胞子には抗原性はないので、抗体は産生されない。
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