1)コイの体側筋に寄生する粘液胞子虫Myxobolus artusの抗体保有魚の検査 Myxobolus artusの感染のみられる水域のコイ(0〜2才魚)を材料とし、組織学的検査によって発育異常を示すシストの保有魚と受身赤血球凝集反応によって抗体を保有する魚を調べたが、両者を直接関連づける証拠は得られなかった。 2)M.artusの種々の発育ステージのコイに対する抗原性 重篤な寄生を受けた0才魚のシストから、粘液胞子虫の種々の発育ステージが得られた。これを胞子と胞子形成前のステージに分け、それぞれをコイに接種したところ、胞子形成前のステージを接種したコイの血清のみが赤血球凝集反応陽性となった。したがって、寄生体の若いステージがコイに対して抗原性を持つことが実験的に明らかになった。 種々の発育ステージを内包する若いシストを抗原とし、抗体保有魚の血清を用いた間接蛍光抗体法を行った。その結果、栄養体と胞子芽細胞に対しては特異蛍光が認められた。一方、胞子に対しては特異蛍光は認められなかった。従って、発育中の寄生体のみが抗原性を有すると考えられた。 このことにより、被包形成が不完全など、異常な発育を示すシストが、胞子形成を完了する前に崩壊することによって、シスト内の抗原性のある発育中の寄生体が宿主の免疫系にさらされた結果、粘液胞子虫に対する抗体産生が誘導されたという仮説が裏付けられた。 3)寄生体の接種によるコイの感染防禦能の獲得 精製胞子の超音波破砕物を抗原として接種したコイを実験魚とした。その後、接種魚と対照魚を感染水域で飼育した結果、感染率、血中の好中球の割合および貪食能で、実験区と対照区で差はなく、胞子を抗原としてはワクチン効果はないことが確認された。
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