魚類の初期発育過程における網膜光受容細胞の発生は、ふ化仔魚の卵黄消耗および摂餌開始の時期に依存し、一方松果体光受容細胞はアユ・ニジマスのようなふ化までの胚体期が比較的長い魚種でも、ヒラメ・クロダイ・イワシのような胚体期の短い魚種でも、胚体期のうちに既に発生しており、網膜のそれに先行することが明らかにされ、このような松果体光受容細胞の早期の発生は外界の明暗識別・日周リズムの形成・概日リズムの確立等に関与していることが示唆された(大村・小栗'90、Omura & Oguri '91、田畑・大村 '91、大村・小栗 '92、大村他 '92)。 さらに本研究においては、東北大学付属浅虫臨海実験所にて採集したマボヤ(原索類)受精卵を飼育管理しながら、経時的に眼点を含む頭部を採取・固定し、光顕及び電顕用樹脂包埋標本を作製した。マボヤ幼生の眼点は付着・変態の後しばらくして消失することが知られているが、きわめて小さく且つ方向性があり、厳密なオリエンテーションを行って切片を作製、観察・写真撮影した。その結果、受精後38時間(ふ化後まもなく)既に外節層板膜を備えた光受容細胞が眼点にみられ、42時間には外節層板膜が発達の頂点に達し、48時間には外節層板膜の退化の傾向がみられ、60時間(付着期に入る頃)には他の細胞との識別が困難になることを観察した。 そこで、本年度は上記の研究に加えて、他の細胞との識別を目的とした光受容細胞のレクチンによる標識法を検討した。WGA、PNA、conAの3種のビオチン化レクチンを用いてABC-HRP法により、1)明暗順応状態におけるキンギョ網膜光受容細胞、2)ヒラメ仔魚および成魚の網膜光受容細胞、3)クロダイふ化仔魚の網膜光受容細胞、4)アユ稚魚の松果体光受容細胞、5)ニジマス胚体の松果体光受容細胞等の光受容部すなわち外節層板膜の標識を比較検討し、仔魚あるいは幼生の光受容細胞に対する本法の応用が可能なことを明らかにした(本研究成果は平成5年度日本水産学会春季大会にて発表)。
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