イセエビ類フィロゾーマの完全飼育をJasus、PanulirusおよびPalinurusの3属について行うと共に、天然採集により得たプエルルスを用いて生態観察および生理実験を行った。 1.変態プエルルスの作出 従来困難であったフィロゾーマの完全飼育は、飼育条件としてNannochloropsis sp.100〜500万細胞/ml、アムモニア態窒素1.4ppm以下、COD1.2ppm以下、細菌数10^3〜10^5CFU/mlを適用することにより達成された。平成4、5年度のプエルルス生産尾数はJ.edw-ardsii 5、J.verreauxi 24、Panulirus japonicus 4、Palinurus elephas 2尾であった。プエルルスの観察実験への供試尾数の増加を図るためJ.edwardsii(ニュージーランド)、J.verreauxi(オーストラリア)、Panulirus argns(米国)のプエルルスについて天然採集を行った。 2.プエルルスの生態 飼育によるプエルルスの期間は最短でPanulirsuおよびPalinurusは12日、Jasusは20日であった。これらのプエルルスはすべて無投餌で稚エビに脱皮し、水温がプエルルスの期間を決める唯一の環境要因であることが示された。プエルルスは水温の変化に対して抵抗性があり、冷水性のJasus属は28℃の高温に、温水性のPanulirus属は15℃の低温に耐えることができた。着底基盤はJ.edwardsiiは岩の割れ目、J.verreauxiは海藻であるが、P.japonicusはその両方、P.ele-phasは岩の上であった。なおJ.edwardsiiでは潜砂行動に日周性が示された。 3.プエルルスの生理 変態後接岸するまでの間のプエルルスは透明であるが、定着数日後には中腸腺が肉眼で認められるようになり、甲殻への色素の沈着が進行して稚エビに脱皮する。プエルルスの中腸腺前葉・中葉の先端部(J.edwardsiiの場合)、または中葉・後葉の合流部(P.argusの場合)には樹状に体腔中に延びる脂肪体の存在が認められた。プエルルスの生育に伴い脂肪体は減少し、それがプエルルス期の栄養貯蔵器官であることが示された。
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