魚肉貯蔵中の軟化現象の生化学的機構を明らかにするため、マイワシおよびヒラメ冷蔵中のエキス画分中の遊離アミノ酸およびペプチド量をHPLC法により測定したところ、経時的にコラーゲン特異的アミノ酸であるヒドロキシプロリンおよび同アミノ酸含有ペプチドの遊離が認められた。この結果は、魚肉の物性が結合組織コラーゲンに依存していることを考慮すると、魚肉軟化はコラーゲンの酵素的分解による可能性を示唆していた。そこでゼラチンザイモグラフィーによりコーラゲン分解酵素の検索を行なったところ、分子量50kから200kの分解バンドが検出された。そこで、マイワシおよびヒラメ筋肉組織からの本酵素の精製を試みたが、高純度な標品を得るにいたらなかった。 一方、貯蔵中に魚肉は顕著な軟化を示すのみならず、その皮(皮膚組織)も筋肉から剥がれ易くなる。これは、皮膚組織と筋肉組織の間に介在する結合組織コラーゲンの分解によるものと考えられる。この原因プロテアーゼは、結合組織の線維芽細胞由来と考えられることから、筋肉軟化の原因酵素と同一の可能性が予想された。そこで筋肉組織にくらべてより精製が容易と考えられる皮膚組織由来のコラーゲン分解酵素の検索とその精製を試みた。 まずヒラメ皮膚組織粗抽出液についてザイモグラフィーによりコラーゲン分解活性を調べたところ、筋肉の場合と同様の分解バンドが検出させれた。これらの見かけ上異なる活性は、DEAE-セルロースカラムからは分子量50kの単一の分解バンドを生じる活性として回収されたことから、同一の酵素に起因するものと考えられた。この酵素の筋肉組織における局在性を知るための抗体作製を目的として、DEAE-セルロース溶出画分をさらにCon-AセファロースおよびREACTIVE-REDアガロースを用いて精製し、最終的に均一な標品を得ることに成功した。現在、この標品を抗原として、ウサギを用いてポリクローナル抗体を作製中である。
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