研究概要 |
わが国における農業生産構造は,畜産部門を中心に急速に変貎しつつあるが,稲作部門における変化は鈍い。専業的に営農するための下限規模の上昇にもかかわらず,零細な家族経営が広汎に滞留したためである。兼業稲作が継続出来たのは,直系三世代家族の同居によって,男子労働力による休日の機械作業,両親による日常的な肥培管理,農繁期における家族総出による作業,といった分担が可能であったことによる。 その直系三世代家族が,形態的にも,質的にも急激に変容しつつある。形態的にみれば,家族成員の全般的な減少の下で,なお二世代夫婦同居の東北型,一世代夫婦のみとなった南方型,南方型へ急速に接近し,老夫婦だけの家族が増加している西日本型,二世代夫婦同居が崩れ始めている北海道型に分化している。質的にみれば,二世代夫婦が同居していても,若者夫婦が全く農業に関わらない傾向が強まり,実質的に夫婦単位の家族形態へと移行しはじめている。 こうした変質が激しく進んでいるところほど,農地を所有したままで非農家となる「土地持ち非農家」の形成が著るしい。この「非農家」の農地は,一方では「前進的流動化」のファンドとなり,借地型大経営形成の条件となっている。北陸,東海がその典型であり,山陽・四国ではきわめて散在的ではあるが大規模借地経営が生れている。他方では,借り手を見い出せないまま耕作放棄地となっている。山陽,四国,東山等ではそうした「後退的流動化」が主流である。
|