本年度は、主としてダム貯水池の水収支と湖内の水温分布の関係を詳細に検討した。ダム貯水池においては、大洪水の後に濁水の長期化現象が起こることがあることはよく知られている。これの最大の理由は、洪水流入前に貯水池に蓄えられていた清澄な水が洪水の流入によって押し出され、代わって貯水池内は濁水で置き換えられるためである。通常、流入出量に較べて貯水量の大きな湖では、貯水池は夏季に表面が温められ、躍層が形成される。躍層は急激に温度が変化する極薄い層のことで、この躍層を挟んで上下の層の水は混ざり難い。また、躍層内に濁水が流入した場合、その濁水は殆ど拡散せず躍層中に留まることが知られている。 実際、過去3年間の湖水の水温分布と濁水分布を比較すると、湖中に強力な躍層が形成されている場合には、流入濁水は躍層中を速い速度で通過してダム堤体部に達し、洪水放流口から放流されている様子が分かる。このため、湖水の濁りは比較的軽微である。一方、躍層が破壊された後に洪水が流入すると、濁水は急速に拡散して、堤体部からは清澄な水ばかりが放流され、後には濁水が残される。即ち、濁水の湖中への拡散防止、及び濁水の早期放流と言う観点から見れば躍層を保持させることは重大な意味を持つのである。ただし、湖水が成層している場合には湖水が停滞し、別の水質悪化の問題を引き起こすことがある。成層を破壊しつつ強力な躍層を保持することが重要なのである。今年度の詳細な検討によって、このような効果を期待できる放流方法のあり方について、多くの知見を得ることができた。
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