(1)絶食ストレスにより誘起されるLH分泌抑制のメカニズム 絶食ストレス時にみられるLH分泌抑制において、PVNへのカテコールアミン作働性神経入力及びCRH放出が関与しているかどうかを確かめるため、以下の実験を行った。まず最初に48時間絶食させた動物のPVN内へカテコールアミン合成酵素のひとつ、tyrosine hydroxulaseの阻害剤であるα-methyl-p-tyrosine(AMPT)を微量投与し、LH分泌を観察した結果、AMPT投与群では絶食ストレスによるLH分泌抑制は阻害された。このことは、PVNに投射するカテコールアミン作働性ニューロンが、絶食ストレスによるLH分泌に関与していることを示す。次にCRH受容体の拮抗剤であるa-helical CRFを脳室内に投与した結果、絶食ストレスに対するLH分泌の抑制は解除され、非絶食群と変わりのない盛んなLH分泌が観察された。このことから、このLH分泌抑制機構にはCRHが深く関与しており、われわれがたてた仮説をすべて裏付ける結果となった。 (2)パルス状LH分泌の発生メカニズム LHRH pulse generatorはLHRHニューロンとは別のニューロン群であり、LHRHニューロンの神経末端が存在する正中隆起においてLHRHの放出を制御し、パルス状の放出を発生させているという仮説に基づき、正中隆起においてLHRHの放出を促している神経伝達物質の検索を行った。慢性的に卵巣除去しておいたラットから正中隆起組織片を取り出し、試験管内にて各種神経伝達物質を添加し、LHRHの放出を観察した。その結果、モノアミン類は全く効果を示さず、唯一効果があったのは興奮性アミノ酸であった。また、この物質を介したLHRHの放出はNMDA型、AMPA型およびkainate型の3つのタイプの受容体を介していることが明らかとなった。さらに、この受容体を介したLHRH放出機構が生理的であることを示すため、in vivoにおいて正中隆起領域にこれらの受容体の拮抗剤を投与したところ、パルス状LH分泌が抑制され、この機構が生理的にも働いていることが明らかとなった。
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