前年度はタリン(230kD)がおそらくは細胞膜直下で、アクチンフィラメント形成のための核となり、次いで、alpha-アクチニンとの協同作用により細胞内骨格の3次元構造の形成、即ち、細胞形態の決定に関与する可能性を示した。そこで本年度はさらにタリンを細胞内の内因性の蛋白質分解酵素、カルパインで処理しN-末端側の47kD断片とC-末端側190kD断片に分解した。得られたC-末端側の190kD断片は、インタクトなタリンで観察されたと同様な、あるいはむしろ高いレベルのアクチン結合能を示し、アクチン重合の核形成やゲル化を促進する作用も有していることを認めた。一方、47kD断片はこれらの活性をほとんど示さなかった。ウサギに免疫して得られた抗鶏砂のう筋タリンの抗体を、脳、砂のう筋、骨格筋、心筋や卵管組織などのいろいろな鶏組織中のタリンおよびその分解断片の検出のために使用した。ほとんどの組織抽出物中には、インタクトな230kDポリペプチドの他に、免疫的に交叉反応を示す190kDポリペプチドを高レベルで含有することが明らかになった。このことはタリンが組織抽出物の調整中にプロテオリシスに非常に感受性が高いか、あるいはまた生筋細胞中でさえもこの現象が生じている可能性を示している。 これらの結果はC-末端ドメインが細胞骨格成分の組織化に重要な役割を果たすことを示唆している。一方、N-末端ドメインは細胞膜構成要素と相互作用してなんらかの機能を発揮する可能性がある。今後は190kD断片のどの部位に、このような機能が存在するかを詳細に検討し、alpha-アクチニンやビンキュリンの関与もさらに明確にし、また47kDのN-末端ドメインの細胞膜側との連繋の可能性も探ることによって、細胞接着斑における分子構築の機構を明らかにする必要があろう。
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