ピロプラズマの主要表面抗原の遺伝子を解析するため、原虫cDNAライブラリーを作製し、ウサギ免疫血清によるイムノスクリーニングにより32キロダルトン蛋白質(p32)を発現するファージクローンを得た。p32遺伝子の全塩基配列を決定したところ、283アミノ酸からなるポリペプチドをコードしていることが判明した。内部には、マラリア原虫で知られているようなアミノ酸の繰り返し構造は認められなかった。さらに、cDNAライブラリーから2種類の異なったp32cDNAをクローニング、計3クローンの塩基配列を比較した。その結果、3および5'側の非コード領域において差異が認められた。この領域が蛋白質発現調節において何らかの影響を及ぼしている考えられた。コード領域内においては、1ないし2カ所の塩基の置換があった。一感染個体から繰り返し原虫を採取し、そのDNAのPst1消化断片をサザンブロットで解析すると、パターンに変化があることがクローン化した染色体DNAをプローブとして用いた場合認められている。同様な解析をp32cDNAをプローブとして用いた場合でも検出できた。この結果は、p32遺伝子内の制限酵素Pst1の認識配列を異にする原虫のポピュレーションが存在し、感染経過において優勢に出現する原虫が交替していると解釈できた。また、このp32遺伝子コード領域内の塩基置換はアミノ酸置換を伴うものであった。すなわち、198番目のアミノ酸がAla→Glyに変化しており、この1アミノ酸の置換により蛋白質の立体構造に大きな変化がおきていることが予測された。このことから、抗原性にも差異が生じてくることが予想される。ウシ小型ピロプラズマの持続感染において、宿主の免疫応答から回避するために抗原性を異にする原虫集団が宿主体内で入れ替わっていることが、本研究で示された。
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