心筋細胞内に起こるCa^<2+>トランジェントはあまりの瞬時の出来事のため画像解析に成功した例はない。しかし我々はスリットスキャン方式採用により時間解像度を上げた装置を入手できた。この装置では4ミリ秒間隔の画像記録が可能であり、ほぼその時間的問題を解決できる。前年度(平成4年度)では主に正常な状態でのCa^<2+>トランジェントの発生・伝播形態の解析を行った。今年度はCa^<2+>トランジェントに影響を与えると思われる薬剤の存在下における解析を行った。研究にはモルモットおよびラット心室筋から得た単一細胞を用い、fura-2を負荷、Ca^<2+>濃度変化は励起波長340nm/380nm(500nmの蛍光波長)で得られた輝度の比率から算出した。また、単一細胞には電気的に反復刺激を加えた。 Ca^<2+>トランジェント発生は、1箇所、数箇所あるいは細胞全体的に起こり、そこから比較的ゆっくり細胞全体に伝播した。isoproterenolはその発生箇所および伝播速度を増加させた。また、消失時間の短縮も発現した。一方、verapamilは発生箇所の減少、伝播速度の減少を引き起こした。ouabainおよびCaCl_2添加は初期発生および伝播様式には影響を与えることなくCa^<2+>トランジェントのピークのみを増加させた。抗癌剤として繁用されているdoxorubicinはピーク到達までの時間および消失速度の延長、そして、静止時のCa^2濃度の増加を発現した。 以上の結果から以下のことが推察された。Ca^<2+>トランジェントの発生箇所は細胞により様々であるが、個々の細胞を考えた場合、必ず決まった箇所から発生する。また、発生は筋小胞体から放出したCa^<2+>により起こるが、そのきっかけはCa^<2+>チャンネルを通り流入したCa^<2+>による。伝播は次々に起こる筋小胞体からのCa^<2+>放出によりなされている。Ca^<2+>トランジェントのピーク到達時間はその発生箇所および伝播速度にも影響を受けている。
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