研究概要 |
1.広東住血線虫のネズミにおける侵淫状況:名古屋市全域で捕獲されたドブネズミ427匹(♂209,♀218)について、本線虫の侵淫状況を肺動脈における虫体の寄生の有無により調査した結果、名東区、南区及び港区の3区で陽性例が確認された。陽性率はそれぞれ6.1%(5/82)、1.8%(1/55)及び5.0%(2/40)で、全体としては1.9%(8/427)であった。寄生状況に性差はなかったが、成獣で多くみられた。ネズミ1匹当りの寄生成虫数は平均15隻で、雌雄ほぼ同数であった。名古屋市における本線虫の疫学を解明するため中間宿主となりうるナメクジを上記の3区から計781匹集め、第3期幼虫の保有の有無を、消化後ラット経口投与によって調べたがまだその確認はされていない。 2.広東住血線虫症の血清学的診断法の検討:診断用抗原の作成のため、まず沖縄県において第3期幼虫をもつアフリカマイマイの収集を行い、284匹中9匹(3.2%)に幼虫寄生を確認した。本幼虫を分離後、ラットに経口投与して40日目の肺から成熟虫体を回収した。抗原は肺からの成熟虫体、それらが産卵し、孵化して得た第1期幼虫及びアフリカマイマイから得た第3期幼虫からそれぞれ凍結融解、超音波処理等で抽出した。予備実験で各抗原の特異性等を実験感染ラットの経過血清、陽性ドブネズミ血清等を用いて感度の高いELISAで検討したところ、雄成熟虫体抽出抗原で良好な成績が得られた。この抗原を用いELISAによって名古屋市で捕獲されたドブネズミ590例の血清についてスクリーニングを行った。しかしうち178例に非特異反応が認められ、残りの412例中25例が陽性で、陽性率6.1%であった。なお虫体寄生が認められた8例中非特異反応がみられた2例を除く6例はすべて陽性であった。本線虫の血清診断法として上記の系を確立するためには、抗原の精製法あるいは非特異反応の除去などまだ多くの検討すべき課題が残されている。
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