研究概要 |
従来、哺乳類松果体は均一な細胞群からなる内分泌器官として考えられてきた。しかしながら、近年、メラトニンの特異的合成酵素であるハイドロキシインドール・O・メチルトランスフェラーゼ、光受容関連タンパクであるS-プロテイン、神経内分泌細胞のマーカーの一つである神経特異エノラーゼに対する抗体を用いた研究は、哺乳類松果体実質細胞が、分子レベルでは必ずしも均一な細胞群ではないことを示した。 本研究では、ウシの松果体を材料として、松果体細胞を神経特異エノラーゼ(NSE)、シナプトファイシン(SY-38)、ハイドロキシインドール・O・メチルトランスフェラーゼ(HIOMT)に対する抗体、および支持細胞をグリアタンパク(GFAP)に対する抗体を用いて、松果体内における部域差について検討した。その結果、松果体周辺部(皮質)ではGFAP陽性細胞は大型で、非常に長くて細い突起を伸ばしているのに対し、器官中心部(髄質)では、支持細胞は小型で、短くて細かい突起を多数、有していた。皮質の松果体細胞は、NSE,SY-38,HIOMTいずれも髄質部における細胞よりも強い反応を示した。さらにHIOMTのcRNAプローブを用いてin situハイブリダイゼーション法を行ない、メラトニン合成酵素の遺伝子発現について検討を加えた。次に、共焦点レーザースキャン顕微鏡を用いて、HIOMT mRNAの発現量を解析した結果、髄質部におけるよりも皮質部の松果体細胞に強い発現を示した。以上の結果からウシ松果体では皮質部の松果体細胞は髄質部の細胞よりも内分泌細胞としてより分化していると考えられる。最近、ラット松果体についても同様の所見を得ており、このことは哺乳類の松果体全般について該当することかも知れない。
|