研究概要 |
顕微手術を始めるに当って,高周波振動するメスの製作を行なった。歯科用の超音波スケーラーを改造したために振動数,振幅の調節に限界があり必ずしも完全なものとは言えないが本研究の目的を達成するものとしては十分な装置となった。この装置を用いてウズラ及びニワトリの胚子に対し次の手術を施し,沿軸中胚葉の発生と中軸構造の関係を観察した。(1)脊索の働きを調べるために神経管の底板を脊索の右外側に沿って切開し,脊索から切り離され,かつ神経管と接した沿軸中胚葉を作り出した。(2)神経管の働きを調べる目的で,神経管を除去した。(3)沿軸中胚葉を脊索と神経管の両方から切り離し中軸構造の無い環境下で沿軸中胚葉が分化出来るか否か観察する目的で,神経管と右沿軸中胚葉の間を切開した。手術後胚子は再び孵卵器に戻し適当な時期に2.5%グルタールアルデヒドで固定し,1%オスミュウム酸で処理した後,エポンに包埋し組織構築を光顕で観察した。またカルノアの液で固定した胚子はパラフィンに包埋し,切片は平光教授(埼玉医科大学解剖学教室)から提供された心筋からミオシンの抗体で処理され,筋細胞の発生の有無を観察した。 以上の観察から脊索が無いと椎板の細胞が細胞死を起こし,結果として椎骨は発生しない事が示された。一方筋板については脊索が無くとも神経管があれば発生出来る事が示され,神経管が筋板の発生に関与している事を示唆する所見も得られたが,神経管が無くとも筋細胞が分化した材料も得られた。実験(2)から得られた後者の結果は,体節のレベルで行なわれた実験の観察によるものであるので,この結果が手術の時期によるものなのか否か検討するため現在体節板のレベルでの神経管の切除を行なっているところである。 肢芽の発生と中軸構造の関係については前述のどの実験に於ても肢芽の発生が認められ,少なくとも肢芽の発生について中軸構造は無関係であると言えるが,脊索を神経管の背側に移植すると肢芽が背側に向かって伸びるようになるので,現在その理由を検討中である。
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