研究概要 |
脊索と神経管が体節の発生と分化及び肢芽の形成をコントロールしているか否か実験発生学的にニワトリ胚子を用いて検討した。まずst.14の胚子の腰部背側正中に脊索を移植し肢芽の形成を観察したところ,あたかも背腹を逆転したかのように背側に向かって肢芽を成長させる胚子が現れた。これらの多くは腹壁の形成がほとんど無く内蔵を裸出したまま発生し,十日までに全て死んでしまった。この結果から脊索が背側に移植されたことにより体節からの筋組織の発生が異常を起こし腹方への体壁の成長が出来ず,さらには肢芽の成長方向も変わってしまったことが考えられた。そこで肢芽と脊索の関係を検討する前に脊索と体節の関係を明らかにしておく必要がわかったので次のような実験を行った。 体節が分化する環境を手術的に変化させ,体節発生を観察するため, 1;神経管と体節の間を内胚葉に至るまでの切開し神経管も脊索も無い環境を作ったところ,術後10時間で体節全体が細胞死を引き起こし,24時間では体節に由来する構造全てが消失していた。2;神経管の正中を通り脊索の脇を内胚葉に至るまでの切開を行ない脊索が無い神経管だけの環境を作ったところ,術後10時間では椎板細胞にのみ細胞死が認められ,24時間では皮筋板が中空のボール状になっていた。七日胚子を筋繊維の標識抗体で染めると筋細胞が不規則な配列を持って中腎原基の上に広がっていた。十日胚子を軟骨染色し椎骨の発生状況を観察したところ,手術側の椎骨は形成されていなかった。3;神経管を摘出して体節だけの環境を作ったところ,皮筋板の外側約半分が発生しており,七日胚子の筋繊維の染色でも神経管から離れた位置に筋細胞の発生が認められた。 以上の結果から椎板の形成は明らかに脊索の支配を受けていると言える。一方皮筋板の形成に関してはどちらか一方が存在すれば発生する事がわかった。しかし脊索だけの環境で形成された場合と神経管だけの場合と発生してくる皮筋板が同じものなのか否か今後解明すべき問題として残った。また肢芽の成長方向の異常については腹壁の低形成に伴う複合的な結果として生じた可能性もあり,今後のさらに検討する必要が残った。
|