哺乳動物のほとんどの組織に分子量15kDa前後の細胞質可溶性蛋白質が存在し、脂肪酸との結合能があるため脂肪酸結合蛋白質(FABP)と呼ばれる。FABPは近似配列をもつ多数の分子種からなるファミリーを形成し、組織特異的に異なる型の蛋白質が発現している。このうち最近新潟大学小野輝夫博士の研究室でラット小腸上皮から分離された新しいFABPである腸15kDa蛋白質(I-15P)について、ラット組織における発現と局在を詳細に検討した。まずラット小腸からI-15PのcDNAをクローニングし、塩基配列を決定した。この配列の一部に相補的な合成DNAをプローブとして、in situハイブリダイゼーション法によりラット全身におけるI-15PのmRNA発現部位を検索し、同時に抗I-15P抗体(小野博士提供)を用いた免疫組織化学により、I-15Pの組織内・細胞内局在を光顕および電顕レベルで解析した。免疫反応性およびmRNAシグナルとも、小腸のうち特に回腸の吸収上皮細胞に局在した。電顕的には反応性は主に細胞質基質に局在した。そのほか、副腎のステロイド産生細胞の一部と、卵巣の黄体細胞にも免疫反応およびmRNAシグナルが局在した。以上の結果は、I-15Pが回腸吸収上皮細胞による胆汁酸吸収に関与する可能性とともに、一部のステロイド性内分秘細胞のホルモン代謝に関与する可能性を示唆した。 卵巣ではI-15P以外に別のタイプのFABPとして心臓型FABP(H-FABP)が発現している。卵巣の生後発達および排卵過程におけるH-FABPとI-15Pの免疫反応性の発現を調べたところ、I-15Pの反応は生後2週から3週にかけて一過性に卵胞膜・間質腺細胞の一部に陽性となった後に4週でいったん消失し、排卵開始する5週以後には黄体細胞に局在した。未成熟ラットにゴナドトロピンを投与して排卵を誘導すると、胞状卵胞の顆粒膜細胞に、その黄体化にともなって次第に強くI-15Pが発現した。一方、H-FABPの反応は生後3日から2週にかけて一過性に卵胞上皮細胞に陽性で、2週以降成獣にいたるまでは常に卵胞膜・間質腺細胞に局在した。以上の結果は、2種のFABPがラット卵巣の異なる細胞種に発現し、それぞれ特異的なステロイド産生に関与する可能性を示唆した。
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