研究概要 |
コラゲナーゼインヒビター(TIMPと略称)はその名称である機能の他、サイトカインとして赤血球系細胞や他の多くの培養細胞に対して増殖刺激活性をもつことが分かって、その多彩な機能が注目されている。本研究はTIMPの細胞内動態、特に、細胞核への集積現象について検索し、その機能的意義を考察するものである。 本研究によって得られた成果は、以下の点にまとめられる。1.TIMPはコラーゲン・コラゲナーゼ産生正常線維芽細胞のみならずRaji,HeLa細胞などコラーゲン非産生細胞においても産生される。2.TIMPは細胞外に分泌されるタンパク質として知られているが、調べたすべての細胞において細胞核へ移行する画分のあることが分かった。3.Raji細胞についてエルトリエーター分画のTIMP免疫染色及び分離核のTIMPとDNAの二重蛍光染色・FACS分析を行ない、核内TIMP量はDNA量と相関なく正規分布を示し、細胞周期の推移に関係して増減することが示唆された。4.ヒト正常線維芽細胞の細胞周期同調的培養によって、TIMPの核への移行・集積は細胞分裂周期に関連して起こり、さらに増殖細胞核抗原(PCNA)とS期細胞との比較検討から、TIMPの核内集積はG1期途中に始まってS期後まで存在し、G0期において著減することが明らかになった。5.増殖活性の高い腫瘍性細胞HeLa細胞ではPCNA陽性率が90%以上で、TIMPの核陽性率も80%以上を示した。以上の一連の研究結果から、TIMPの核内への移行・集積は細胞増殖と関連して起こると結論できる。非ライソソーム性プロテアーゼ(Proteasome)が細胞周期と関係して核へ移行することが最近明らかにされており、プロテアーゼインヒビターであるTIMPもまた細胞増殖の調節に何か関与する可能性が考えられる。この点の解明が今後の興味ある研究課題である。
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