研究概要 |
肝臓ではいわゆる基底板が見られないのが正常である。これは肝実質細胞と血液との旺盛な物質輸送と関係があるように思われる。したがって肝臓においては基底板が存在すると物質輸送の障害となる。そこで肝組織構築の状態は基底膜を構成するコラーゲンの存在状態によって予見しうるのではないかと考え本研究を企画立案した。 カニクイサルに四塩化炭素と投与して実験的肝線維症を起こし、抗CEB抗体(JK-132抗体)と抗α2(IV)抗体(JK-199抗体)を用いたSandwich ELISA法により血中CEB量を定量し肝生検の組織像との関係を明かにした。その結果、四塩化炭素を10ケ月以上投与すると血中CEB量が正常の1.5〜2.0倍に上昇し肝類洞周囲腔には基底板が形成されていた。血中CEB量の増加は肝類洞周囲腔の基底膜形成を反映しており、引き続くコラーゲン細線維の沈着を示唆する結果を得た。一方肝炎が肝硬変患者では血中CEB量は健常人2〜10倍に達していた事から、臨床への応用が期待される。 α2(IV)やCEBは正常肝組織からは抽出され難い。しかし肝線維症患者の肝のなかには正常の肝に比べて数倍以上のα2(IV)やCEBが抽出できるものがある。一方カニクイサルの個体によってはかならずしも血中にCEB量の上昇を示さないにも拘らず肝類洞壁にCEBの沈着が見られた。これはα2(IV)やCEBが線維化肝では量的に多いの事とその存在状態が溶出されやすい状態になっているとも考えられる。したがって基底板はその量だけでなく組織内での存在状態すなわちα2(IV)、CEBおよびI型,III型,V型などの線維性コラーゲンとの会合状態が重要であることが示唆された。
|