研究概要 |
胎生期造血の変遷に関連し,マクロファージの関与と機能的分化を明らかにする目的で,マウス胎児ならびに新生児の肝臓と脾臓をHPMA水溶性樹脂切片による光学顕微鏡観察と電子顕微鏡で観察し,次の新しい知見を得た. 1.肝臓におけるスカベンジャーマクロファージから赤芽球島中心マクロファージへの分化 マウス肝臓では胎生11日から造血が始まり,生後早期に終了し,造血巣は脾臓と骨髄に移動する.肝臓の造血は赤血球生成が主体であり,造血の最盛期にはマクロファージとその周囲を種々の分化段階の赤芽球が取り囲むいわゆる赤芽球島が形成され,マクロファージは中心マクロファージとして周囲の赤芽球の成熟をたすけるいわゆるナース細胞となる.赤芽球島は造血発生初期には存在しない.造血発生時には肝臓類洞内にスカベンジャーとして自由マクロファージが多数出現し,卵黄嚢由来の有核原始赤芽球を活発に捕食する.スカベンジャーマクロファージは増殖しつつ,肝細胞索内へと移動し,細胞表面に赤芽球を収納するセルソケット構造を作り,赤芽球島が形成される.肝臓赤芽球島の形成には,類洞におけるスカベンジャーマクロファージの存在が前提となる. 2.脾臓における造血細胞の死と食細胞による取り込み 脾臓造血の開始時点においても,肝臓と同様にスカベンジャーマクロファージが脾臓造血巣内に多数出現する.マクロファージの食作用の対象は肝臓とは著しく異なり,主体は放出された赤芽球核である.脾臓では造血細胞の活発な増殖に加え,変性に陥る赤血球,赤芽球ならびに好中球が多数に出現し,これらもまた食細胞に取り込まれる.この時期の脾臓では自由マクロファージに加え,肥満細胞も赤血球系を対処として食作用を示す. 3.今後の展望 胎生期の造血組織のシフトとマクロファージ食細胞の分化との関連を考えるとき,原始赤芽球の肝臓マクロファージによる取り込みは,卵黄嚢造血の衰退そのものを表す現象であり,予定された"プログラムに折り込み済みの現象"とみなされる.今回観察された脾臓における造血細胞の変性と食細胞による取り込み現象もまた,胎児の個体発生に伴う"プログラムされた細胞死"と関連させて検討する必要がある.
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