投射ニューロンに内在する情報伝達系の可塑性を検討する上で、脳内の層構造に異常があるリーラーマウスを用いて形態学的に、細胞内電極法によって生理学的に、受容体の遺伝子発現をinsituハイブリダイゼーション法で分析した。 (1)大脳皮質運動領の交連線維系、皮質脊髄路、皮質視床路の3種の投射ニューロン群を対象として、Biocytinによりニューロンを逆行性に標識し、細胞体の大きさ、樹状突起の方向と径について、デジタイザーとパソコンを用いてより数値的な形態解析を行った。その結果、3種の投射ニューロン群は、正常では大脳皮質内で各々特定の層に局在し投射先により細胞体の大きさ、樹状突起の径、樹状突起の伸長方向に互いに異なる特徴的な形態を示していた。リーラーマウスでは3群とも大脳皮質の全層にわたって分布するが、3群のニューロンを皮質内の同一部位にて比較すると、細胞体の大きさおよび樹状突起の径の相対的な大小関係は正常に保たれていた。頂上樹状突起の伸長方向は皮質内の位置ごとに異なっており、皮質内位置と樹状突起の方向の関係は3群の間で異なった様式をしめした。以上の結果から、リーラーマウスにおいても、正常と同じ様に、投射ニューロンの基本形態は投射領域により決定され、樹状突起の伸展様式は、皮質内に占める位置や入力因子に依存する事が示唆された。 (2)脳のスライス標本によるニューロンの電気生理学的な資料を得るための装置をセットし、ニューロンより細胞内電位変化をとるスライス法の検討を行った。マイクロスライサによる切片の作成、電極作成法を検討した。正常マウスについてデータの検討を行ったが、リーラーとの比較は今後の問題に残された。 (3)小脳のプルキンエ細胞を対象にNMDA型グルタミン酸受容体の発現を観察した。この受容体の遺伝子は部位によってその発現様式に差異が見られ、入力環境によって遺伝子発現が影響を受けることが判明した。以上から、脳内環境によるニューロン自体の可塑的変異能の解析にリーラーが有用な実験動物であることが示唆された。
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